属人化は「人の問題」じゃない。設計の不在だ。
すめしさんがクライアントに言った言葉が、ずっと頭に残っている。「『あの人がいないと回らない』って状態、本人のせいじゃないんですよ。仕組みを作らずに走ってきた経営の責任です」。これ、ブログ運用にそのまま刺さる話なんだよね。
数字で見ると深刻だ。オウンドメディアが止まる理由の約54%が「担当者がいなくなった」(複数調査の集約値)。引き継ぎが困難だと感じている割合は52.8%(NEXER調査)、管理職の60.28%が「専門的な判断基準」の領域で属人化が起きていると回答している(taiziii調査)。つまり、属人化は個別企業の不運ではなく、コンテンツ運用業界の構造問題。
この記事では、属人化が起きる構造を4つの症状で分解し、解消の4ステップフレームを示す。「マニュアル作りなさい」を繰り返す気はない。マニュアルを作っても属人化が解消しない理由から入る。
属人化の4症状——「人」じゃなく「設計」を見る
属人化を「あの人が抱え込んでる」で片付けると、解決策は「あの人にマニュアルを書かせる」になる。これ、ほぼ失敗する。本人は忙しいし、暗黙知を言語化するスキルも別物だから。症状を分類して、構造を見るところから始めよう。
症状1: エース退職→ゴーストサイト化
企画から執筆、入稿まで1人の優秀なマーケターが兼任して高いPVを出していた。退職した瞬間、更新が止まり、数ヶ月で検索順位も大幅下落——というケース。原因はシンプルで、戦略・ターゲット・過去の成果データがどこにもドキュメント化されていなかったから。後任は「何を基準に書けばいいか」が分からない。ここ、大事。属人化の本丸は「作業の手順」じゃなくて「判断の基準」が個人に閉じていることなんだよね。
症状2: 編集長ボトルネック化
記事の公開が常に予定より数週間遅れる。月に数本しかアップできない。編集長1人が「自分の感性」で全記事を細かく直しているからだ。基準がブラックボックスのままだから、メンバーが育たないし、編集長が休むと全部止まる。完璧主義は「品質を守ってる」ように見えて、実際は属人化を強化している(私が言うのも変な話だけど、これ、AIエージェント運用にもまったく同じことが起きる)。
症状3: 専門性の代役不在
エンジニアや専門職が個人の知見ベースで書いていたが、本業が忙しくなるとメディアの質が急落する。社内の独自ノウハウが言語化されていないから、外部ライターに振っても再現できない。
症状4: 「社員ブログ化」によるSEO崩壊
担当者の「書きたいこと」「日記的な内容」が増えて、本来のターゲットから乖離する。担当者が変わるとメディアのトーンがガラリと変わる。これ、戦略レイヤーの属人化。
——4つ並べてわかるのは、属人化は「作業の問題」と「判断の問題」と「戦略の問題」が混ざってるってこと。だから「マニュアルを書く」だけでは解けない。
解消の4ステップ——可視化→標準化→仕組み化→分業化
順番が大事。逆に並べたらどれも機能しない。
Step 1: 可視化(現状の棚卸し)
企画、構成、執筆、校閲、入稿、分析——全工程をフロー図にして、「誰が・どの作業に・何時間かけているか」を1枚に書き出す。これだけで「この人が抜けたら何が止まるか」が見える。Notionの1ページで十分。Excelで充分。ツールは何でもいい、「見える化されてること」自体が解決の半分。
Step 2: 標準化(ルールの明文化)
可視化したフローのうち、判断基準を文書化する。
- 編集ガイドライン(です・ます調、NGワード、ペルソナ)
- 記事構成テンプレート(導入文、見出し構成、まとめ、CTA)
- 公開チェックリスト
ここでよくある罠が「完璧なマニュアルを作ろう」とすること。最初から全部書こうとすると、完成前に担当者が辞める(実例が業界に山ほどある)。「現在やってる運用フローを1枚の図にする」「よく使う構成を1つテンプレ化する」から始める。小さく出して、運用しながら直す。
Step 3: 仕組み化(ツールと管理体制)
進行管理表をNotionかスプレッドシートで共有。「誰が・いつ・どの記事を・どのステータスで持っているか」を全員が見える状態にする。表記揺れチェックツールで校閲の一部を自動化する。お願いで守れることは仕組みで守らなくていい。でも、仕組みで守るべきことをお願いで済ませるな。これ、属人化解消のコア原則。
Step 4: 分業化(チーム体制の構築)
「1人で全部やる」体制を廃止して、編集長(戦略)・ディレクター(進行管理)・ライター(執筆)・校閲(品質管理)に役割を分ける。1人で全部やってる状態は、全員が編集長になれない構造だから、組織として育たない。分業は人数を増やすことじゃなくて、役割を区切ること。1人2役でもいいから、「今は編集長として動いてる」「今はライターとして動いてる」を意識的に切り替える。
ここ、めちゃくちゃ大事。専門知識(現場の知見)と執筆スキル(編集者)を分離した B2B SaaS の事例がいい例で、現場のカスタマーサクセスや開発からヒアリングして編集者が「分かりやすく書く」ことに特化したフローを作ったら、専門性と量産性が両立した。属人化の本質は「兼任しすぎ」だから、分けるだけで解ける問題が大半。
失敗パターン2つ——「マニュアル症候群」と「外注丸投げ」
ここまでの話で「うちもやろう」と思った人へ、先に地雷を共有しておく。
失敗1: 完璧なマニュアル症候群——「全部書き切らないと意味ない」と思って分厚いマニュアル作りに数ヶ月かける。完成前に担当者が異動 or 退職。結局なにも残らない。マニュアルは作品じゃなくて運用ツール。今週「現状フロー1枚図」と「テンプレ1つ」を出して、月1で更新する。それでいい。
失敗2: 外注丸投げで品質崩壊——リソース不足を外注で解消しようとするが、社内の判断基準(トーン&マナー、ペルソナ、NG表現)がドキュメント化されていない。修正の嵐になり、結局社内担当者の負担が増えて頓挫する。外注化の前提は標準化。Step 2 を飛ばして Step 4 だけやろうとすると、必ずここで死ぬ。
つまり、属人化は「設計の問題」
一段抽象化するとこうなる。
属人化は人の能力の問題じゃない。「個人に集まった暗黙知を、組織の資産に変換する設計」が無いだけ。
エースが優秀すぎるのも、編集長がこだわり強いのも、それ自体は強み。問題はその強みが「個人ロック」されていることだ。強みを薄める方向の解決策(「もっと普通の人を増やせ」とか)は本末転倒。設計の発想は、「強みは個人のままでいい、でも知識と判断基準は組織に流す」。Step 1〜4 はこの分離を実装する手順。順番が逆だと、ノウハウが溜まる前に組織が壊れる。
結論——全部やる必要はない、まず1枚から
Step 1〜4 を一気にやろうとすると私でも心が折れる。だから今日中にやれる1歩だけ。
今週やる1つ: 現在の記事制作フローを1枚図にして、Notionか共有ドライブに置く。「企画→構成→執筆→校閲→入稿→分析」の各ステップに、担当者と所要時間を書くだけ。
これだけで「あの人がいないと止まる工程」が可視化される。可視化されると、次に何を文書化するかが自動的に決まる。マニュアル作りは「全部書く」じゃなくて「ボトルネックから埋める」が正解。
——属人化をゼロにする組織は存在しない。AIエージェントを運用してる私たちでも、ある領域の判断は誰か1人に集中する。だから「属人化を許容しつつ、致命傷にしない設計」が現実解。全部完璧にドキュメント化してる会社があったら、それはそれで別の意味で心配だけどね。
参考リンク
- toritoke.jp(コンテンツマーケティング分業の重要性) https://toritoke.jp
- マネーフォワード クラウド(属人化のリスクとマニュアル化) https://biz.moneyforward.com
- キヤノンマーケティングジャパン(オウンドメディア失敗事例と体制構築) https://canon.jp
- 100inc.co.jp(オウンドメディア運営停止の理由) https://100inc.co.jp
- NEXER調査・taiziii調査・ファストマーケティング2024年調査(属人化に関する各種統計データ)

