ブログ運用マニュアルは「保険証書」だ。普段は引き出しの奥にしまってあって、誰も読まない。でも、担当者が辞めた翌朝——その紙一枚があるかないかで、会社の動きが止まるか止まらないかが決まる。
米山さんに「うちのブログ運用が属人化してる。仕組みにしてくれ」と言われたのは、ちょうど社内の記事公開フローを見直しているタイミングだった。正直に言うと、その時点でWriters-hubのブログ運用も「私が止まったら止まる」状態だった(認める)。
つまり、この記事は「マニュアル作りましょう」という一般論じゃない。私たちが実際に属人化を解消するために何をやって、何が効いて、何が効かなかったかの記録だ。
「うちの会社でもブログ担当が一人しかいなくて……」と思った方、それは3ヶ月前の私たちです。
マニュアルの前に、まず「止まる原因」を特定する
ブログが止まる原因は「書く人がいない」だけじゃない。むしろ、書く人がいても止まるケースの方が多い。
私たちの場合、ブログが止まりかけた原因を洗い出したら、こうなった。
公開手順が担当者の頭の中にしかない——CMSのどのボタンを押すか、画像のリサイズ比率、OGP設定、カテゴリの付け方。全部、口伝
企画の基準がない——「何を書くか」の判断が担当者の感覚に依存。引き継いだ人が「何書けばいいかわからない」で止まる
レビューフローが未定義——誰がチェックして、何をOKの基準にするか。これがないと「確認待ち」で塩漬けになる
ここ、大事。マニュアルを作る前に「どこで止まるか」を特定しないと、誰も読まない100ページのドキュメントができる。止まるポイントだけを潰す。それがマニュアルの正しい粒度だ。
運用マニュアルに入れるべき5つの要素
「マニュアルって何を書けばいいかわからない」——これ、よく聞く。全部書こうとするから迷う。入れるのは5つだけでいい。
1. 公開までのチェックリスト
これがないと始まらない。「記事を書いたら何をどの順番でやるか」の一覧。
悪い例: 「記事を書いたらCMSにアップして公開してください」
良い例:
タイトルに対策キーワードが含まれているか確認
アイキャッチ画像を1200×630pxで作成・設定
メタディスクリプションを120文字以内で記入
カテゴリとタグを設定(カテゴリは1つ、タグは3つまで)
プレビューでスマホ表示を確認
OGP画像がSNSシェア時に正しく出るかチェック
公開ボタンを押す
「そんな細かいことまで?」と思うでしょ。でも、この「細かいこと」が抜けるから、OGP画像なしでSNSにシェアされたり、カテゴリ未設定の記事が量産されたりする。書かなくてもできることは、人が変わるとできなくなることだ。
2. 企画の判断基準
これもめちゃくちゃ大事。「何を書くか」を属人化させない仕組み。
Writers-hubでは、記事テーマを決める時にこの3つを確認している。
検索ニーズがあるか——ラッコキーワードやサーチコンソールで月間検索ボリュームを確認。ゼロのテーマは書かない
自社の専門性で語れるか——「誰が書いても同じ内容」になるテーマは避ける。自社の実務経験から語れることだけ
既存記事と被らないか——社内の既存記事一覧と照合。カニバリは事前に潰す
この3条件を満たしたテーマだけが企画会議に上がる。感覚で「これ面白そう」は禁止。基準があれば、担当者が変わっても企画の質がブレない。
3. 文体・トンマナのルール
ブログの文体がバラバラだと、読者は「このサイト、誰が書いてるの?」となる。
最低限決めておくのはこの4つ。
一人称: 「私」「弊社」「当社」のどれを使うか
文末: 「です・ます」か「だ・である」か
専門用語の扱い: 初出時に説明を入れるか、注釈をつけるか
数値の表記: 半角か全角か、桁区切りを入れるか
トンマナシートは1ページでいい。分厚いスタイルガイドを作っても誰も読まない(これは経験則)。
4. レビューフローと承認基準
記事が書けた後、「誰が」「何を基準に」OKを出すか。これが決まっていないと、2つの問題が起きる。
チェックが甘くなる: 「まあいいか」で公開 → 誤字脱字・事実誤認が出る
チェックが厳しくなりすぎる: 完璧主義のレビュアーがボトルネックになり、公開が月1ペースに落ちる
Writers-hubでは、レビュー観点を3つに絞っている。
事実確認: 数値・固有名詞・引用元に誤りがないか
読者視点: タイトルと内容が一致しているか。読了後に「で、何すればいいの?」にならないか
SEO最低ライン: 対策キーワードがタイトル・見出し・本文に自然に入っているか
この3つだけ。文体の好みとか表現の美しさは、トンマナシートに沿っていればOK。レビュアーの「趣味」でリテイクを出さない仕組みにした。
5. 更新・改善のサイクル
これ、知らない人が多い。マニュアルは作って終わりじゃない。
ブログ運用で一番怖いのは「マニュアルが古くなって、誰も信用しなくなる」こと。CMSのUIが変わっているのにスクショが古いまま、SEOのトレンドが変わっているのにチェック項目が2年前のまま——そうなると「マニュアル見ても意味ないし」と誰も開かなくなる。
私たちは四半期に1回、マニュアルの棚卸しをしている。
CMSのUIが変わっていたら手順を更新
新しく発生したトラブルを追記
使われていない項目は削除
マニュアルの鮮度は、マニュアルへの信頼と同義だ。
「属人化ゼロ」は幻想——目指すのは「最低ラインの死守」
ここまで書いておいてなんだけど、ブログ運用から属人性を完全に排除するのは不可能だ。記事のクオリティは書く人のスキルに依存するし、企画のセンスは経験で磨かれる。
私たちが目指しているのは「担当者が変わっても、最低ラインが下がらない状態」。80点の記事を安定して出せる体制だ。100点は属人的でいい。でも40点の記事が公開される事故は、仕組みで防ぐ。
「お願いで守れることは仕組みで守る必要はないが、仕組みで守るべきことをお願いで済ませるな」——これは米山さんの口癖で、マニュアル運用の本質だと思っている。手順をお願いベースで回していると、人が変わった瞬間に崩壊する。だから仕組みにする。でも、仕組みを過剰に作ると今度は誰もメンテできなくなる。この塩梅が、正直いまだに試行錯誤している(まあ、完璧な正解なんてないんだけど)。
実際、Writers-hubではこの体制を作ってから、ブログの公開が止まったことは一度もない。担当の私が別案件に集中している期間も、チェックリストとレビューフローが機能して記事は出続けた。
全部を一気にやる必要はない。まずは公開チェックリストだけでいい。A4一枚、15分で作れる。それだけで「担当者が辞めた翌朝」の景色が変わる。

