BLOG

記事公開のペースが不安定——月次の公開本数を安定させるバッファ設計

在庫として整然と並んだ箱の棚——記事公開の在庫設計を表現したミニマルイラスト

「今月、ブログ何本出ましたっけ?」と聞かれて、即答できないメディア運用は危ない。

私が見てきた中で、月によって2本だったり7本だったりするオウンドメディアには、ほぼ例外なく同じ症状がある。担当者が忙しくなった月だけ落ち込み、暇な月にまとめて出して帳尻を合わせる。読者から見れば「気まぐれな更新」、Googleから見れば「不安定な発信源」。一番損しているのは、現場で頑張ってる担当者本人だったりする。

公開ペースを安定させる方法は、根性ではなく在庫設計の話。今日はそれを、私が複数案件で実際に回してきたやり方ベースで書いていく。

公開ペースは気合じゃない。仕込みだ。

公開ペースは、飲食店の仕込みと同じ構造をしている。

ランチタイムだけ気合で頑張る店は潰れる。前日の夜と早朝に仕込んでおいた分を、ピーク時に出す。記事公開も同じで、「公開する日」と「執筆する日」を同じ日にしようとした瞬間に運用が崩れる。

ここ、大事。

データで言うと、Orbit Mediaの2024年ブロガー調査では、週1回以上更新するブログは、それ未満のブログに比べて「強い成果」を報告する確率が2.5倍だった。一方で1記事あたりの平均執筆時間は3時間51分まで伸びている(2014年比で約75%増)。週1回更新するということは、毎週ほぼ半日を執筆だけに割くということ。これを「兼務担当者」が涼しい顔でこなせる前提が、そもそも無理筋なんだよね。

広報会議の2024年オウンドメディア実態調査でも、継続の壁として「コンテンツ数の維持」が58.1%、「人材・リソース不足」が48.7%と並んでいる。約8割の企業が効果を実感しているのに、半分以上が量を維持できなくて止まる。これ、能力の問題じゃなくて構造の問題だと私は思っている。

だから、執筆と公開を時間軸で切り離す。仕込みと提供を分ける飲食店と同じ。これが在庫設計の入口。

「2〜4週間分の在庫」が事故を吸収する

具体的にどれくらい仕込めばいいか。

業界の運用実例を集めると、目標公開ペースの2〜4週間分を常に完成済みでストックしておく、というのが共通解になっている(Mayclass のコンテンツ運用記事ほか)。週1公開なら2〜4本、週3公開なら6〜12本。これだけあると、社内承認の遅延・執筆者の急病・繁忙期・クライアント側の差し戻し——だいたいの事故が「公開ペースには出さずに済む」ようになる。

私が複数案件を見てきた中で、在庫がゼロになると起こるのは順番にこの3つ:

  1. 「今週何出します?」会議が毎週発生する(毎週企画から走る)
  2. 急ぎで書くから品質が落ちる
  3. 品質が落ちたから差し戻しが増える、結果さらに公開遅れる

完全に負のスパイラル。これ、知らない人が多いんだけど、在庫がない状態は「忙しいから書けない」じゃなくて「書けないから忙しい」状態になっている。原因と結果が逆転している。在庫を持つだけで、毎週の企画会議が「今週何出す?」から「来月何出す?」に変わる。視点が1ヶ月分前倒しになる。これだけで担当者の余裕が全然違う。

ただし在庫は2種類用意するのが正解。

  • エバーグリーン枠: いつ公開しても価値が落ちないノウハウ系・ハウツー系。これがバッファの本体
  • トレンド枠: 鮮度が命の時事ネタ。これは「足の速い在庫」として別管理にする

エバーグリーンを厚く積んでおくと、トレンド記事に差し替える運用ができる。これ、めちゃくちゃ大事。在庫が「全部トレンドネタ」だと、賞味期限切れで在庫ごと腐る。私も最初これでやらかした(恥ずかしい話、3ヶ月寝かせたAI関連記事を出そうとしたら、もう前提が古くなってて全文書き直しになった)。

在庫を切らさないための3つの蛇口

在庫を持つ重要性はわかった。じゃあどうやって切らさず仕込み続けるか。蛇口を3つに分けて常時開いておく、というのが私の答え。

蛇口1: ネタの「半製品リスト」を常に50本以上持つ

完成記事の在庫の前に、ネタの在庫を持つ。

タイトル案+角度(この記事でしか書けないことは何か)まで決まった「半製品」を、Notionなりスプレッドシートなりに常に50本以上ストックしておく。月10本公開するメディアなら、5ヶ月分のネタストック。これがあると、「今月のネタ何にしますか?」会議が消える。

ネタストックの仕入れ先は3系統:

  • クライアント/読者からの質問・問い合わせログ(一番強い)
  • 競合メディアの上位記事から「角度を変えて書ける余地があるテーマ」を抽出
  • Google検索結果1ページ目で「答えが薄い検索クエリ」を見つける

この時点で「テーマだけ並べて満足する」のは罠で、必ず「この記事でしか読めない角度」まで言語化しておく。角度が空の半製品はスロップ確定なので、在庫にカウントしない。

蛇口2: 工程を分離して並行で走らせる

「執筆」を1人が最初から最後までやる体制は、それ自体が在庫を切らす最大の原因。

企画・構成・執筆・校閲・入稿——これを別工程として独立させて、別の日・別の人が担当できる構造にする。カンバン方式(Asana・Backlog・Notion等)でこれを可視化している運用は、業界全体の主流になってきている。

私の場合、構成作成までは社内(私自身)でやって、初稿執筆は外部ライターさん、校閲・編集は私、というラインで動かしている案件が多い。これだと「私が忙しい週」でもライターさんは別案件として進められるし、ライターさんが詰まっても私が校閲を進められる。1人が全工程を持つと「その人の繁忙度」がメディア全体の生産性になる。これを切り離すだけで、出力が安定する。

蛇口3: AIに「初稿の8割」を任せる

ここは2024年以降の最大の変化。

AIに「全部書かせる」とスロップ問題に直撃するけど、「構成案からの初稿の下書き」と「リサーチ素材集め」だけに限定して使うのは、品質を落とさず速度だけ上げられる。Innovaの2024年体制構築記事でも同じことが指摘されていて、「個性を消すのではなく、人間にしかできないこと以外を仕組み化する」というアプローチが主流になっている。

人間が書くべきは「自社しか持っていない経験談」「現場の生の判断」「業界に対する独自の見解」の3つだけ。それ以外(情報整理・構成・章立て・つなぎの文章・要約)はAIに任せていい。これで執筆時間の前述「3時間51分」が、私の体感で1時間半〜2時間まで圧縮できる。

在庫が目的じゃない。在庫は緩衝材だ。

最後に1つだけ。

在庫設計を始めると、「在庫を作ること自体」が目的化する罠がある。在庫を切らさないために質を落としてでも書く、という本末転倒。これをやり始めたら全部おしまい。

在庫の目的は「凪のときに公開し、嵐のときに守る」緩衝材であって、出すために出す装置じゃない。月10本のうち1本でも「これは出さない方がいい」と判断したら、在庫から1本減るだけで済む——そのために在庫を持っているわけだから、そこで「もったいないから出す」をやったら設計が崩壊する。

在庫を持つ理由は、判断する余裕を持つため。これが本質だと私は思っている。


ここまで読んでくれた人で、「うちは在庫ゼロです」という担当者がいたら、今週やることは1つだけ。未公開のネタを5本、半製品(タイトル+角度)の状態で書き出す。完成記事じゃなくていい。半製品リストを5本持つだけで、来月の景色が変わる。

全部完璧に在庫設計を組んでる会社があったら、それはそれで別の意味で心配だけどね(在庫設計より先に、もっと本質的な悩みが残っているはず)。

参考リンク

  • Ahrefs / Orbit Media 2024 Blogger Survey: https://ahrefs.com/blog/blogging-statistics/
  • ARCH RMC 2024年 オウンドメディア運用実例: https://arch-rmc.com/owned-media/
  • 広報会議 2024年オウンドメディア実態調査: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000030.000129243.html
  • Mayclass コンテンツバッファの考え方: https://mayclass.co.jp/blog/owned-media-operation/
  • Innova 2024 オウンドメディア課題と体制構築: https://innova-jp.com/owned-media/owned-media-challenges/
記事コンテンツの制作支援の記事一覧全記事一覧