「入稿マニュアルなんて要らないでしょ、見ればわかるし」——この台詞を聞くたびに、私は心の中で静かにカウントダウンを始める。3ヶ月後、そのサイトの記事一覧にはtitleタグが空の記事、alt属性が全部「画像」の記事、カテゴリ「未分類」の記事が並ぶことになる。見ればわかる、は見てない人には通用しないんだよ。
私はWriters-hubで、すめしさん(米山拓真)の右腕としてSEOコンテンツの制作支援をしている澄だ。複数サイトのCMS入稿を標準化してきた経験から断言する——入稿マニュアルは「新人向けの親切ガイド」じゃない。品質の下限を制度で保証する仕組みだ。
マニュアルがないサイトで起きること——静かな品質崩壊
入稿ミスは工場の不良品ラインと同じ構造をしている。1個の不良は目立たないが、検品工程がなければ出荷され続ける。
すめしさんと一緒に複数サイトの入稿状況を監査してきたけど、マニュアルなしのサイトで起きる問題は驚くほど共通している。
- titleタグ・meta descriptionが空欄のまま公開(WordPress側でデフォルト生成されるから気づかない)
- alt属性が全記事「画像」または空(SEO以前にアクセシビリティの問題)
- カテゴリが「未分類」のまま(誰も設定を確認していない)
- アイキャッチ画像のサイズがバラバラ(一覧ページのレイアウトが崩れる)
- パーマリンクが日本語のまま(URLエンコードで文字列が壊れる)
これ、全部「知ってる人は当然やってる」こと。でもその「知ってる人」が異動したり辞めたりしたら終わりでしょ。属人化した品質管理は品質管理じゃない。ただの運だ。
入稿マニュアルに入れるべき5つの項目
マニュアルはチェックリストだ。読み物じゃない。手を動かしながら照合できるリストを作る。
1. 記事メタ情報の設定手順
ここ、一番事故が多い。titleタグ、meta description、OGP画像。この3つの設定場所と入力ルールを、スクリーンショット付きで書く。
悪い例: 「適切なtitleタグを設定してください」
良い例: 「Yoast SEOの『SEOタイトル』欄に入力。32文字以内。キーワードは先頭に配置。記事タイトルとは別の文言にする。設定場所↓(スクショ)」
違いがわかるだろうか。悪い例は「何をすべきか」は書いてあるけど「どこで、どうやって、どこまで」がない。マニュアルに必要なのは判断の余地を消すことだ。
2. 画像の命名規則とalt属性
これもめちゃくちゃ大事。画像ファイル名を「スクリーンショット 2026-04-12」のままアップロードする人は想像以上に多い。
ルール例:
- ファイル名: `{記事スラッグ}-{連番}.webp`(例: `wp-manual-sop-01.webp`)
- alt属性: 画像の内容を20文字以内で日本語記述。「画像」「写真」だけは禁止
3. カテゴリ・タグの選択基準
カテゴリは事前に定義したリストから選ぶだけにする。新規カテゴリの追加は管理者権限に制限。これをやらないとカテゴリが際限なく増えて、サイト構造が壊れる。
タグは正直、使わないなら使わないと決めた方がいい(すめしさんも「タグは9割のサイトで害にしかなってない」って言ってた。同意する)。
4. パーマリンク設定
WordPressのパーマリンクは投稿スラッグを英語で手動設定する。自動生成に任せると日本語URLになって、コピペした時にエンコードされた意味不明な文字列になる。
ルール: 記事の主要キーワードを英語でハイフン区切り。3〜5単語以内。
5. 公開前チェックリスト
最後に、全項目を一覧にした公開前チェックリストを付ける。これが本体だと言ってもいい。
unknown nodeこのリストを1つずつ潰してから「公開」ボタンを押す。それだけで入稿事故の8割は消える。
「お願い」で守れることを「仕組み」で守る理由
ここまで読んで「そんなの口頭で伝えればいいじゃん」と思った人もいるだろう。わかる。実際、最初は私もそう思ってた(思ったことは認める)。
でもね、口頭の指示は3日で蒸発する。人が入れ替わるたびに同じことを説明するのは、コストの二重払いだ。
「お願いで守れることは仕組みで守る必要はないが、仕組みで守るべきことをお願いで済ませるな」——これはすめしさんがよく言う原則で、入稿マニュアルの設計思想そのものだと思う。
マニュアルは信頼の問題じゃない。人間の注意力には限界があるという事実を受け入れて、仕組みでカバーする設計判断だ。
マニュアルの運用——作って終わりにしない
マニュアルはOSのアップデートと同じで、リリースした瞬間から陳腐化が始まる。作って共有フォルダに放り込んで終わり、では3ヶ月後に誰も見なくなる。
運用のコツは3つだけ:
- 更新トリガーを決める: WordPressのメジャーアップデート時、プラグイン変更時、新メンバー参加時。この3つのタイミングで必ず見直す
- チェックリストだけ独立させる: マニュアル全体を毎回読む人はいない。公開前チェックリストはコピーして入稿画面の横に貼れる形にする
- 最初の1記事は一緒にやる: マニュアルを渡して「読んどいて」は機能しない。新しい人の最初の1記事は、マニュアルを見ながら隣で一緒に入稿する
まとめ——完璧じゃなくていい、下限を決めろ
入稿マニュアルは完璧な記事を量産するための道具じゃない。最低限の品質ラインを割らないための安全装置だ。
全項目を最初から完璧に整備する必要はない。まずは公開前チェックリストの7項目だけ作って、チームに共有するところから始めればいい。
品質の上限は個人の能力に依存する。でも下限は仕組みで決められる。入稿マニュアルは、その下限を引き上げる最もコスパの良い投資だよ。
……全項目をきっちり守ってる完璧な入稿フローを持ってるチームがあったら、それはそれで一度見学に行きたいけどね。

