社内でChatGPTの利用を認めるかどうかを決める場面で、必ず論点になるのが情報漏洩です。ところが「危ない」「対策が必要」という話が大量に流通している割に、実際に何が起きたのかを正確に説明できる人は多くありません。
事例を一つずつ確認していくと、あることに気づきます。公表・報道されている漏洩の多くは、AIが勝手に社外へ情報を送り出したものではありませんでした。人が入力した情報、提供者側の不具合、盗まれたアカウント、そして仕様を誤解したまま押した共有ボタン。原因はきれいに分かれており、有効な対策も層ごとに違ってきます。
本記事では、一次資料か報道で内容を確認できる事例だけを5件取り上げ、原因を4つに整理しました。そのうえで、記事制作を請け負う立場から見た「社内ルールが現場で機能しなくなる理由」と、実際に打てる手を解説します。
- 公表資料・報道で確認できるChatGPTの情報漏洩事例5件の中身
- 漏洩の原因を「入力・不具合・アカウント窃取・共有設定」の4層に分ける見方
- 学習させない設定(オプトアウト)では防げない範囲がどこまでか
- 全面禁止、社内での整備、外部委託のどれを選ぶかの判断軸
- 機密を入力してしまった後に取る手順
公表・報道で確認できるChatGPTの情報漏洩事例5件
最初に押さえておきたいのは、ChatGPTの漏洩として語られているものが、性質の異なる複数の出来事の寄せ集めだという点です。企業の技術者が自分で入力した話と、OpenAI側のシステム不具合の話と、利用者のパソコンから認証情報が盗まれた話は、まったく別の現象。ここでは内容を確認できるものだけを取り上げ、噂として広まっているものは扱いません。
半導体メーカーの技術者が業務データを入力した事例
2023年3月、サムスン電子が社内でのChatGPT利用を認めた直後の出来事として報じられたのが、この事例でした。報道によれば、利用を許可してからおよそ20日の間に、機密性の高い情報の入力が3件確認されています。半導体設備の計測データベースに関するプログラムの誤りを調べさせたもの、不良を検出するプログラムの改善を依頼したもの、そして社内会議の録音を文字起こしして議事録の作成を依頼したものでした。
注目したいのは、3件のいずれもが業務としてはごく自然な使い方だった点です。原因の分からないコードを貼り付ける、長い会議メモを要約させる。悪意はどこにもありません。それでも情報は社外のサービスへ渡っており、同社は2023年5月に社内文書で生成AIの業務利用を禁止したと複数のメディアが報じました。

※ 出典:Forbes「Samsung Bans ChatGPT Among Employees After Sensitive Code Leak」(2023年5月2日)
他の利用者のチャット履歴のタイトルが表示された不具合
2023年3月20日、ChatGPTの画面に自分のものではない会話のタイトルが並ぶという事象が発生しました。OpenAIは同月に公開した説明のなかで、原因はキャッシュに使っているオープンソースのライブラリ(redis-py)の不具合であり、サーバー側の変更をきっかけに接続が誤って別の利用者のデータを返す状態になったと述べています。
外部からの攻撃ではなく、提供者側の実装が引き金になった点がこの事例の要です。利用者がどれだけ慎重に運用していても、この種類の漏洩は防ぎようがありません。手元で制御できるのは「見えてしまったときに何が見えるか」という範囲だけ、という前提に立つ必要があります。
※ 出典:OpenAI公式ブログ「March 20 ChatGPT outage」(2023年3月公開)
有料プラン加入者の氏名と請求情報が見えた可能性
同じ不具合には続きがありました。OpenAIの説明によると、3月20日の特定の9時間の間にサービスを利用していたChatGPT Plus加入者のうち約1.2%について、氏名、メールアドレス、請求先住所、クレジットカードの種類と番号の下4桁、有効期限が他の利用者に表示された可能性があるとされています。カード番号の全体が見える状態にはなっていません。
チャットの中身ではなく、アカウントに紐づく決済情報が出たという点で、この事例は前の2件と性質が異なります。業務の情報を一切入力していない人であっても影響を受け得た、ということ。入力を我慢するだけでは守りきれない領域が存在します。
認証情報10万件超が闇市場で流通していた調査
2023年6月、セキュリティ企業のGroup-IBが、情報窃取型マルウェア(インフォスティーラー)に感染した端末のログを調べた結果を公表しました。2022年6月から2023年5月までの1年間で、ChatGPTの認証情報を含むログが101,134台分見つかり、2023年5月の1か月だけで26,802件と件数は増加傾向にあったと報告されています。地域別ではアジア太平洋地域が最も多いという内容でした。
ChatGPTは既定で会話の履歴を保存します。つまりアカウントを奪われることは、過去に入力した内容がまとめて読まれることとほぼ同義。ここで破られているのはOpenAIのサーバーではなく、利用者の手元にあるパソコンです。

※ 出典:Group-IB「Group-IB Discovers 100K+ Compromised ChatGPT Accounts on Dark Web Marketplaces」(2023年6月)
共有リンクから会話が検索結果に出た事例
2025年7月末から8月にかけて、ChatGPTで共有した会話がGoogleの検索結果に表示されていると報じられました。原因になったのは、共有時に選べた「このチャットを検索で見つけられるようにする」という趣旨のオプションです。利用者の多くはリンクを知っている人だけが読める状態だと理解していたため、認識と実際の挙動にずれが生じていました。
OpenAIは2025年7月31日、この機能を短期間の実験だったとして削除する方針を示し、すでにインデックスされた内容の削除にも取り組むと説明しています。設定の初期値と説明文の書き方だけで漏洩は起こり得る、という教訓が残りました。

※ 出典:INTERNET Watch「やじうまWatch」(2025年8月4日)
国内に目を向けると、2023年6月2日に個人情報保護委員会が生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表しています。事業者や行政機関等に対してプロンプトへの個人情報の入力について注意を促すとともに、OpenAIに対しても要配慮個人情報の取り扱いに関する注意喚起を行いました。生成AIの利用は社内の裁量だけで完結せず、法令の枠組みの中にあるという確認です。

ここまでの5件を、情報がどこから出たのかという観点で並べ直すと、対策の見取り図が見えてきます。

関連記事:AIの倫理的問題とは?主な論点と企業がとるべき対策を事例で解説
事例を並べても対策は決まらない。原因は4つの層に分かれる
5件を横に並べると、漏洩と呼ばれている出来事が同じ性質ではないと分かります。公表されている事例の多くは、AIが勝手に情報を持ち出したものではありません。人が渡した、提供者側で見えた、端末から盗まれた、設定で公開された。この4つに分けた瞬間に、打つべき手は自動的に決まります。
原因の層 | 代表的な事例 | 情報が出た場所 | 対策の担い手 |
|---|---|---|---|
利用者の入力 | 半導体メーカーの入力事例 | 自社の中 | 現場の運用ルールと教育 |
提供者側の不具合 | 履歴のタイトル表示、請求情報の表示 | 提供者のシステム | 契約プランの選定と入力範囲の設計 |
認証情報の窃取 | 闇市場での認証情報の流通 | 利用者の端末 | 端末対策と多要素認証 |
共有設定の誤解 | 共有リンクの検索表示 | 公開されたWeb | 初期値の確認と機能の周知 |
自社の運用だけで確実に止められるのは、実質的に1つ目と4つ目に限られます。2つ目は選ぶプランと入力する情報の範囲でしか制御できず、3つ目に至ってはAIの問題ですらありません。盗まれたアカウントは、社内ルールでは守れません。ここを混同したまま「AI利用のルールを作ったので大丈夫」と結論づけている組織が、実際にはかなりの数にのぼります。
社内で作る文書が対応できるのは、4層のうち2層です。残る2層は情報システム部門の管轄(端末とアカウント)と、契約・調達の判断(どのプランを使うか)に属します。AI利用の検討を現場任せにすると、この2層が誰の担当でもないまま残ります。
順番としては、まず自分たちで止められる層を確実に閉じ、止められない層については「起きたときに何が見えるか」を小さくしておく。この二段構えが現実的な落としどころになります。
関連記事:ChatGPTの情報漏洩はどこで起きる?3つの経路と設定・ルールでの止め方
「学習させない設定にしたから安全」という誤解
企業からの相談で最も多いのが、学習させない設定(オプトアウト)に関する認識のずれです。設定そのものは有効ですし、入れるべきものでもあります。ただ、その効果の範囲を取り違えると、かえって危険な運用に傾いてしまいます。
オプトアウトの設定を入れました。これで社内の資料を入力しても問題ないと考えてよいでしょうか。
編集部
学習に使われないことと、社外へ送信されないことは別の話です。入力した内容はOpenAIのサーバーに届いており、不正利用の監視などの目的で一定期間は保持されます。設定で下げられるのは「将来のモデルに残る」リスクであって、「いま社外に出ている」という事実は変わりません。
オプトアウトは学習を止める設定で、送信そのものは止まりません。この一点を共有できているかどうかで、社内の判断の質が変わります。取引先との秘密保持契約に「第三者への開示を禁じる」条項がある場合、学習に使われるかどうかとは無関係に、外部サービスへの入力そのものが問題になり得るためです。
あわせて誤解されやすいのが次の3点です。有料プランだから安全というわけではないこと(個人向けの有料プランは主に機能差であり、法人向けプランとは扱いが異なります)。法人向けプランでも、社内の権限設計が甘ければ共有した会話が想定外の同僚に読まれること。そして退職者のアカウントを放置すると、過去の会話ごと管理外に置かれ続けることです。
つまり設定は入口にすぎません。実際の事故は、設定の有無ではなく「誰が何を入力してよいか決まっていない状態」から生まれています。
設定を入れた後、社内での使い方まで決まっていますか
オプトアウトや法人プランの契約は入口であって、事故が起きるのはその先の運用です。Writers-hubでは、社内でAIを使う体制の設計から、入力してよい情報の線引き、現場向けの研修までを支援しています。
関連記事:ChatGPTに学習させない設定方法|オフにしても残るリスクと防ぎ方
禁止から入るとうまくいかない。入力してよい情報を先に決める
漏洩事例を読んだ直後の反応として一番多いのが、全面禁止という判断です。気持ちは分かるものの、この選択は多くの場合で長続きしません。理由は単純で、生成AIを使えば30分で終わる仕事が、使わなければ半日かかるためです。
禁止だけの運用は、見えない利用に置き換わるだけです。私物のスマートフォンや個人アカウントでの利用に流れると、会社としては誰が何を入力したかを把握する手段を失います。禁止する前に、承認した環境を用意しておく。順序を逆にすると、統制が効かない状態を自ら作ることになります。
そのうえで、入力してはいけない情報を具体的な言葉で示します。抽象的な「機密情報」という表現では現場が判断できません。
- 顧客名や取引先名が含まれた資料の原文
- 未公表の売上、単価、原価などの数値
- 個人を特定できる情報(氏名、連絡先、契約内容)
- 取材や会議の音源、その文字起こしをそのまま貼り付けたもの
- 認証情報、アクセスキー、社内システムの接続先
記事制作の現場で言えば、危ないのは取材音源と、クライアントから預かった未公開資料です。要約させたいという動機がはっきりしている分、手が伸びやすい。私たちが制作を請け負う際も、素材そのものをAIに渡すのではなく、固有名詞と数値を伏せた作業用メモに一度落としてから使う手順を挟みます。手間は増えますが、事故の起点をそもそも作らないという意味では最も確実な方法です。
禁止も許可も、現状を知らないまま決めれば的を外します。まずは業務のどの工程で、誰が、どのサービスを使っているかを聞き取ります。この段階で私物端末での利用が出てきても、責めない前提で聞くのが要点です。
公開済みの情報、社内限りの情報、取引先から預かった情報の3段階に分け、どこまでを外部サービスに渡してよいかを決めます。判断に迷う類型を3つほど例示しておくと、現場の照会が減ります。
法人向けプランやAPI経由の環境など、会社として認めた入口を先に作ります。個人アカウントでの業務利用を止めるのは、代わりの入口が存在してからです。
入力してしまった人が最初に誰へ連絡するかを、名前で決めておきます。叱責される想定があると報告が遅れ、影響範囲の特定が困難になります。
サービスの仕様は頻繁に変わります。共有リンクの事例が示したとおり、昨日まで安全だった機能の初期値が変わることもあり、一度作った文書を放置すれば現実との差が開いていきます。

全面禁止、社内での整備、外部への委託をどう選ぶか
情報の取り扱いを厳しくするほど、社内で処理できる仕事の量は減ります。逆に量を優先すれば、統制は緩みます。判断の分かれ目は、機密を社外に出さずに量を確保できるかです。この観点で3つの選択肢を並べると、自社がどれを取るべきかが見えてきます。
| 全面禁止 | 社内だけで整備 | 外部の支援を入れて整備する | |
|---|---|---|---|
| 漏洩リスクの抑えやすさ | ○ | △ | ◎ |
| 業務量への効果 | × | ○ | ◎ |
| 立ち上がりの速さ | ◎ | △ | ○ |
| 社内にかかる負担の軽さ | ◎ | × | ○ |
| 現場への定着 | × | △ | ◎ |
| 向いている企業 | 規制が特に厳しい業種 | 情報システム部門に余力がある | 体制づくりと成果物の量を同時に求める |
全面禁止は、決めた瞬間だけは安全に見えます。ただし前の章で触れたとおり、見えない利用へ移るだけという結末になりがち。社内だけで整備する道は理想的ですが、ルールの作成、環境の調達、研修、見直しまでを本業と並行して回せる体制がある企業は多くありません。
外部の支援を使う選択は、単に外注するという意味ではありません。ルールの型と失敗例を持っている相手と組めば、検討にかかる時間を大幅に縮められます。加えて、機密性の高い一次情報を社内に留めたまま、制作の工程だけを外に出すという設計も取れます。
社外に出せない情報を抱えたまま、記事の本数だけ増やすには
機密を含む素材を社内に留めながら制作量を確保する方法として、企画と執筆の工程を外部の編集体制に預ける選択肢があります。Writers-hubは、必要な情報だけを受け取る形で記事制作を請け負い、取り扱い範囲を絞った運用に対応しています。
機密を入力してしまった後に取る手順
事故は起きます。重要なのは、起きた後の初動で被害の広がりが決まるという点です。慌てて履歴を消すだけでは、後から影響範囲を説明できなくなります。
削除の前に、入力した内容と日時、使ったアカウントを控えます。画面の記録を残しておくと、後の報告で推測に頼らずに済みます。
履歴の削除とリンクの無効化は別の操作です。共有リンクを作成していた場合は、そちらを止めない限り、URLを知る人が読める状態が続きます。
履歴を消したうえで、パスワードの変更と多要素認証の設定を確認します。認証情報が盗まれる経路は端末側にあるため、マルウェア対策の状況もあわせて点検します。
取引先の情報が含まれていた場合、契約上の報告義務が生じることがあります。個人情報が含まれる場合は、個人情報保護法上の対応が必要かどうかを法務と確認します。
なお、削除したから何も残っていないと断言するのは避けたほうがよいでしょう。提供者側での保持期間や、不具合が起きていた時間帯との重なりまでは、利用者側から検証できません。報告の際は、確認できた事実と、確認できない範囲を分けて伝えることが信頼につながります。

ChatGPTの情報漏洩に関するよくある質問
個人向けの無料版とChatGPT Plusの間に、入力データの扱いという点で大きな差はありません。差が出るのは法人向けプランやAPI経由の利用で、事業者向けの契約では入力内容を学習に使わない扱いが基本とされています。ただし契約形態を変えても、アカウントを奪われた場合や共有設定を誤った場合の危険は残ったままです。
入力した文章がそのまま別の利用者への回答として出力されたと確認できる公表事例は見当たりません。実際に起きているのは、本記事で挙げた不具合や共有設定による表示です。心配する順序としては、可能性の議論よりも、実際に起きた経路への対策を先にすべきでしょう。
画面上の履歴を消しても、提供者側で一定期間保持される場合があります。共有リンクを作成していた場合は、履歴の削除とは別にリンクの無効化が必要です。削除は必ず行うべき作業ですが、それだけで「なかったこと」にはできません。
業務が回らないルールは守られません。禁止事項を配るだけでなく、承認済みの環境と、そこへ載せてよい情報の線を同時に示してください。禁止の項目数より、迷ったときに誰へ聞けばよいかが明示されているかどうかで浸透度が変わります。
まとめ
ChatGPTの情報漏洩事例を5件たどってきました。半導体メーカーの入力事例、提供者側の不具合による履歴と請求情報の表示、闇市場で流通していた認証情報、そして共有リンクの検索表示。原因は「利用者の入力」「提供者側の不具合」「認証情報の窃取」「共有設定の誤解」の4層に分かれ、自社で確実に止められるのはそのうち2層でした。
だからこそ、対策は禁止の一手では足りません。入力してよい情報の線を具体的な言葉で引き、承認した環境を先に用意し、端末とアカウントの管理を情報システム部門の課題として並行して進める。この組み合わせで、事例が示した経路の大半は塞げます。
合同会社Writers-hubは、SEO記事の制作を請け負う立場から、社内でAIを使う体制づくりと、機密を社外に出さない形での記事制作の両方を支援しています。事例を読んで不安になった段階で止まらず、自社の場合はどの層から手をつけるべきかを言葉にするところまで進めてみてください。
自社の場合、どこから手をつけるべきか判断がつかないなら
事例の傾向と対策の型は共通でも、優先順位は業種や体制によって変わります。社内で使える形に整えるのか、制作そのものを外に出すのか、どちらから着手すべきかを含めて相談を受け付けています。








