質問は用意した。相手の経歴も一通り調べた。それでも取材が終わって録音を聞き返すと、記事に使える発言がほとんど残っていない。用意した質問に、用意したとおりの答えが返ってきただけ、という状態です。
インタビューの出来を分けているのは、その場で出す2問目以降だと考えています。1問目は事前に書けます。ところが2問目は、相手の答えを聞いてからでないと決められません。台本どおりに進んだ取材ほど、原稿は薄くなるという現象が起きるのは、この2問目を捨てているためでしょう。
本記事では、取材を伴う記事制作を数多く手がけてきた制作会社の立場から、当日の進行だけに絞って整理しました。質問設計や台本づくりの話ではなく、その場で何を見て、どう返し、どこを掘るかの話になります。
- 60分のインタビューで、どの時間帯に何を聞くか
- 最初の5分でやること、アイスブレイクが滑る理由
- 相槌・沈黙・メモの扱い方と、傾聴の中身
- 一般論しか返ってこないときに、具体へ戻す3つの聞き方
- 話が逸れた、時間が押した、相手が話さないときの立て直し方
当日の出来は、用意した質問より「2問目」で決まる
事前準備が大切だという話は、すでに多くの解説が扱っています。否定するつもりはありません。ただ、準備で防げるのは聞き漏らしまでで、深さは当日にしか作れないというのが実感です。
記事に載る素材は、具体的な場面、判断したときの理由、その人しか使わない言い回しの3つに集約されます。そして、これらは1問目の答えにはまず出てきません。人は聞かれたことに対して、まず要約で答えるからです。「工夫した点は」と尋ねれば「チーム内の連携を大切にしました」と返ってくる。嘘ではないものの、そのまま原稿には置けません。
2問目の役割は、この要約を開くことにあります。要約された一文の中には、必ず出来事がたたまれています。
準備で担保できる範囲を、正しく見積もる
事前に用意できるのは、聞くべき項目の網羅と、相手の基礎情報の把握、そして最初の入り口の一問までです。ここまでを準備の到達点として見積もっておくと、当日の意識の置き所が変わります。
準備が足りていない人ほど当日その場で慌てますが、準備を万全にした人が必ず良い取材をするわけでもありません。用意した質問表を消化する作業になり、相手が差し出した話の糸口を通り過ぎてしまう。取材に慣れてきた頃に起こりやすい停滞です。
当日は、3つの役割を1人で兼ねている
取材中の聞き手は、進行役と聞き手と記録係を同時にこなしています。残り時間を管理し、話を聞いて次を考え、手を動かしてメモを取る。3つとも意識に乗せると、結果としてどれも中途半端になります。

対処はきわめて単純で、進行役と記録係の負荷を道具に逃がします。終了時刻を書いた付箋を机の端に置けば、時計を気にする回数はぐっと減るでしょう。録音を回していれば、メモは全文を追う必要がなくなります。空いた分の意識を、すべて聞き手に回してください。
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インタビュー当日の流れと、60分の時間の使い方
記事1本のための取材であれば、60分が一つの目安になります。時間帯ごとに聞くものを変えると、同じ60分でも取れる素材の質が変わってきます。
記事の掲載先、想定読者、公開までの流れを口頭で共有します。あわせて録音の許可を取ります。
いきなり本題に入らず、事前に調べたことを1つだけ話題に出します。相手が話し慣れた領域から入るのがコツです。
いつ、誰が、何をしたのか。出来事そのものを時系列で押さえます。ここは事実確認に徹してかまいません。
なぜその選択をしたのか、当時どう考えていたのかを聞きます。深掘りの質問を集中させるのはこの区間です。
数字や固有名詞をその場で読み上げて確認し、聞けていない項目を拾います。
最後の2つの質問を投げ、確認原稿の段取りを伝えます。録音はまだ止めません。
順番を「事実が先、意味があと」にしているのには理由があります。人は自分の判断理由を、いきなり言葉にできません。まず当時の出来事を思い出すと、そのときの判断や感情が一緒に浮かび上がってきます。逆にしてしまうと冒頭から一般論が始まり、そのまま最後まで抽象度が下がらない取材になりがちです。

30分しか取れないときに削るもの
短い取材でよくある失敗は、質問を均等に間引くことです。すべての項目を薄く聞いた結果、どれも中途半端になります。
削るなら、事実を聞く範囲のほうです。扱う案件やエピソードを1つに絞り込み、その1つについて事実と理由の両方を取る。話題の幅は狭くなりますが、記事として成立する深さは確保できます。
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最初の5分で、話しやすい状態をつくる
最初の5分は、相手の緊張をほぐす時間だと説明されがちです。もう少し具体的に言うと、相手が「どこまで話してよいか」を判断できる状態にする時間だと捉えたほうが動きやすくなります。
主旨と着地は、その場でもう一度伝える
依頼書に書いて送っていても、当日の相手はたいてい覚えていません。掲載する媒体、想定している読者、記事の分量、公開の時期。この4点を口頭で30秒ほど伝え直してください。
効果は緊張の緩和ではなく、線引きの共有にあります。社外の読者が見る記事だと分かれば、相手は自分で話す範囲を決められるでしょう。逆に、ここを曖昧にしたまま進めると、当たり障りのない答えが並ぶか、公開できない話ばかりが出るかのどちらかに寄ります。
録音の許可は、理由を添えて取る
「記録のために録音します」だけでも許可は取れますが、一言添えると相手の受け止め方が変わります。
録音をお願いするときの言い方の例です。「お話を正確に引用したいので、録音させていただいてもよろしいでしょうか。原稿は公開前に必ずご確認いただきます」。断られた場合は、メモを取る時間として会話を止める了承をもらい、質問数を2割ほど減らして臨みます。
録音機は相手から見える位置に置きます。隠すように置くと、視界の隅に入るたびに意識が向いてしまうためです。
アイスブレイクが滑るのは、話題が相手の外にあるから
天気、交通、オフィスの立地。定番とされる話題が続かないのは、相手にとって語る動機がないからでしょう。相手は「何を答えてほしいのか」が分からないまま、社交辞令で返すことになります。
代わりに、事前に調べたことを1つだけ、質問ではなく感想の形で置いてみてください。「先週公開されていた導入事例を拝見しました」といった一言です。相手は自分の領域の話なので、説明を足したくなります。話し始めた時点で、場は温まっています。
雑談が苦手で、いつも早く本題に入りたくなってしまいます。アイスブレイクは何分くらい取るのが正解でしょうか。
編集部
時間では測らないほうがよいと思います。見るのは相手の話す速度で、最初の受け答えより明らかに速くなったら本題に入って大丈夫です。2分で温まる方もいれば、10分かかる方もいます。苦手なら無理に雑談を広げず、調べたことを1つ置いて相手に話してもらうだけで足ります。
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傾聴とは、黙って聞くことではない
インタビューの解説で必ず出てくる「傾聴」という言葉は、静かに聞くことだと受け取られがちです。実際の現場では逆で、聞き手はかなり能動的に動いています。相手の話を受け取ったことを、そのつど返しているからです。
相槌は、音ではなく要約で返す
「はい」「なるほど」といった相槌は場をつなぎますが、相手には自分の話が正しく伝わったかどうかが分かりません。そこで、相槌は「はい」ではなく、要約にして返す方法を勧めています。
やり方は簡単で、20秒から30秒に一度、相手の話を一文にまとめて返すだけです。「つまり、最初は社内から反対されていた、ということですね」。合っていれば相手は次の話に進み、外れていれば訂正が入ります。
訂正が入ったときこそ、実は収穫です。相手は「そうではなくて」と言いながら、より正確な説明を足してくれます。この足された説明が、たいてい最初の答えより具体的になっています。
メモを取る手を、意図的に止める
書き続けていると視線が手元に落ち、相手の表情や間の変化を取り逃がします。録音があるなら、メモの役割は2つに絞ってかまいません。あとで聞き返す箇所の目印と、その場で浮かんだ追加質問です。
相手が言葉を選び始めたら、ペンを置いてください。書く音が止まると、相手は「ここは記録される話ではない」と感じ、踏み込んだ話が出やすくなります。もちろん録音は回っているので、あとから引用の可否を確認する前提で使う技術です。
沈黙は、3秒待ってから動く
相手が黙ったとき、聞き手は不安になって次の質問を出しがちです。ところが沈黙のほとんどは、相手が考えている時間にあたります。ここを埋めてしまうと、生まれかけていた答えごと消えます。
心の中で3つ数えてから動く。それでも沈黙が続くなら、質問が抽象的すぎたか、答えにくい内容だったと判断して、聞き方を変えます。
深掘りは「時点・場面・比較」の3方向で出す
深掘りのコツとして5W1Hを挙げる解説は多く見かけます。間違ってはいないものの、実際の会話では「なぜ」を重ねると詰問に近くなります。抽象的な答えは、時点・場面・比較の3方向で具体に戻すと考えたほうが、その場で使いやすいはずです。
| どんな答えに使うか | 質問の例 | |
|---|---|---|
| 時点をずらす | 現在の状態だけを語られたとき | 「いつ頃からそう考えるようになりましたか」 |
| 場面を1つに絞る | 複数形や一般論で語られたとき | 「直近で一番手こずった案件はどれでしたか」 |
| 比較を持ち込む | 良し悪しの評価だけが返ったとき | 「以前のやり方と比べて、何が変わりましたか」 |
3つとも、相手に「思い出す」作業をさせている点が共通しています。人は評価や意見なら即答できますが、具体的な場面は思い出さないと話せません。そして思い出した話には、必ず固有名詞と数字と手触りが付いてきます。
時点をずらす
「今はこう考えています」と語られたら、時間軸を過去へ動かします。考えが変わった時点には、たいてい何かの出来事があります。その出来事こそ、記事の山場になる素材でしょう。
場面を1つに絞る
「お客様によって対応は変えています」のような答えは、複数の経験を平均した結果です。平均された話からは何も見えません。「たとえば直近の1件では」と単数に戻してください。
比較を持ち込む
差分は、人が最も言語化しやすい情報です。前と後、自社と他社、想定と実際。何と比べての話なのかを明示すると、抽象的だった評価に輪郭が出ます。
「具体的には」を繰り返さない
同じ言葉での掘り下げは、2回目までにとどめます。3回続くと、相手には答えを否定されているように聞こえるからです。掘りたい気持ちは変えず、上の3方向のどれかに角度を移してください。

角度を変えたあと、掘れたかどうかは相手の話し方に表れます。下のような変化が出ていれば、質問は当たっています。
- 相手の口から固有名詞が出てきた
- 語尾が「思います」から「でした」に変わった
- 話す速度が落ち、言葉を選び始めた
- 質問していない周辺の事情まで説明が伸びた
- 「これは書いていいのかな」と確認された
逆に、答えの長さだけが伸びて固有名詞が出てこないなら、質問の角度はまだ合っていません。同じ方向で押さず、残りの2方向のどちらかに切り替えてください。
深掘りまで含めて、取材の場を任せられる人が社内にいますか
当日の立ち回りは、読んで理解できても、経験の回数がそのまま差になる部分です。Writers-hubでは、質問設計から取材の同席、記事化までを制作会社として引き受けています。社内の担当者が同席しながら進め方を持ち帰る形にも対応しています。
想定どおりに進まないときの立て直し
取材が計画どおりに進むことは、正直なところ多くありません。起こりやすい5つの場面と、その場での動き方を挙げます。
話が本題から逸れたとき
遮らずに、いったん最後まで聞きます。区切りがついたところで要約を返し、その要約に本題をつなげて戻してください。「今のお話、先ほどの体制変更の時期と重なりますか」といった形です。
一般論しか返ってこないとき
主語を組織から個人へ動かします。「御社では」を「ご自身は」に変えるだけで、答えの具体度が上がります。「一般的には」と前置きされたら、その方が直接関わった1件を聞いてください。
質問を聞き終えて時間が余ったとき
最も答えが短かった質問に戻ります。短い答えには、話しにくい事情か、聞き方が悪かったかのどちらかが隠れているものです。もしくは「今日話していない中で、苦労した話はありますか」と広く投げます。
時間が押したとき、どの質問を捨てるか
調べれば分かる質問から捨てます。沿革、事業内容、数字はあとからメールで補えます。捨ててはいけないのは、その人の判断の理由です。会えなければ二度と取れません。
同席者がいるのに1人しか話さないとき
名指しで振ります。「田中さんの立場からは、どう見えていましたか」のように、その人にしか答えられない角度で問いを立てるのがポイントです。
5つの中で最も判断が必要なのは、4つ目の取捨選択でしょう。残り時間が読めなくなるのは、たいてい前半の事実確認が伸びたときです。
相手が「一般的にはこうですよね」と話し始めると、こちらも一般論で返してしまい、そのまま終わってしまいます。どう切り返せばよいでしょうか。
編集部
一般論には同意してしまってかまいません。そのうえで「御社の場合はどうでしたか」と一段下ろします。それでも戻らないときは、時期を指定するのが有効です。「導入を決めた当時は、どんな状況でしたか」のように時点を置くと、一般論では答えられなくなります。
オンラインのインタビューで変わる3つのこと
オンライン取材は日程調整の負担が小さく、いまや標準的な選択肢になりました。ただし、対面と同じ進め方をすると噛み合わない箇所があります。
- 日程が合わせやすく、遠方の相手にも依頼できる
- 録画が残るため、表情や資料の見せ方まであとから確認できる
- 画面共有で、手元の資料や実際の画面を見せてもらえる
- 声の相槌が被るため、間合いが取りにくい
- 沈黙が実際より長く感じられ、待てずに次の質問を出してしまう
- 場の様子や作業環境など、質問していない情報が入ってこない
対処は3点です。相槌は声から頷きへ切り替え、要約を返すタイミングだけ声を出します。沈黙は画面越しだと体感が伸びるため、対面より1拍長く待つつもりで数えてください。そして質問していない情報が入らない分は、事前のリサーチで補います。
回線と音声の確認には、開始から数分を使う前提で組んでおきましょう。5分の遅れは、後半の深掘りの時間から削られます。
終わり方と、録音を止める前の2分
インタビューは終わりの数分で内容が変わることがあります。録音を止める前の2分に、いちばんの言葉が出る場面に何度も立ち会ってきました。
最後に必ず聞く2つの質問
1つ目は「今日お話しできなかったことで、伝えておきたいことはありますか」。用意した質問の外側にある話が、ここで出てきます。
2つ目は「この中で、記事に載せないほうがよい部分はありましたか」。この質問には副次的な効果があります。線を引く権利が相手にあると分かるため、直前の会話でむしろ踏み込んだ話をしてもらいやすくなるのです。
終了の合図のあと、まだ止めない
「ありがとうございました」と告げたあと、相手の姿勢がゆるみます。そのタイミングで出る一言が、記事の書き出しに使える言葉になることは珍しくありません。
録音は、席を立つまで回しておきます。ただし、終了を告げたあとの発言を使うときは、確認原稿の段階で必ず了承を取ってください。ここを省くと、次の取材を受けてもらえなくなります。
帰る前に3点だけ決めておくと、あとの往復が減ります。確認原稿を送る日、確認をお返しいただく期限、写真や資料の受け渡し方法。口頭で合意し、当日中にメールで同じ内容を送っておけば、認識のずれはほぼ起きません。
インタビューの仕方に関するよくある質問
現場でよく受ける質問をまとめました。
記事1本であれば60分が目安です。30分だと事実確認で終わりやすく、90分を超えると相手の集中が落ちます。相手の役職が上がるほど確保しにくくなるため、短い場合はテーマを1つに絞ってください。
数より、聞けなければ記事が成立しない質問を3つ決めておくことのほうが重要です。残りは相手の答え次第で変わるため、多く用意しても半分は使いません。
録音を主にして、メモは聞き返す箇所の目印と、その場で浮かんだ追加質問だけに絞ります。全文を書き取ろうとすると、聞き手としての働きが落ちます。
最初の3問だけ、そのまま読み上げられる文章で書いておいてください。話し始めてしまえば、あとは相手の答えが次の質問を運んできます。
開始時に終了時刻を口に出して共有しておくのが最も効きます。途中で巻きたいときは、相手の話を要約して返し、その流れで次の質問へつなぎます。
まとめ
インタビューの仕方を当日の立ち回りに絞って整理してきました。要点は3つです。
1つ目は、用意した質問より2問目で差が付くこと。相手の要約された答えを開く作業が、記事の素材を作ります。2つ目は、傾聴とは黙って聞くことではなく、要約を返しながら聞くことだという点。3つ目は、抽象的な答えが返ってきたら、時点をずらす、場面を1つに絞る、比較を持ち込むの3方向で具体へ戻すという型です。
読んで分かることと、その場で動けることの間には差があります。最初のうちは、当日に意識する項目を1つだけ決めて臨むのが現実的でしょう。今回であれば、相槌を要約に変えることから始めるのをお勧めします。
合同会社Writers-hubでは、取材を伴う記事の制作を、企画から取材の同席、執筆、確認対応まで一貫して引き受けています。社内で取材を回せる体制を作りたい場合は、同席しながら進め方をお渡しする形にも対応しています。
次の取材、同席しながら進め方ごと持ち帰りませんか
1回の取材で身につく部分と、回数を重ねないと分からない部分があります。Writers-hubの制作支援では、取材の設計から当日の進行、記事化までを一緒に進めながら、社内に手順が残る形でお渡ししています。








