「『を』の後に『、』を打つのは間違いだよ」。報告書を上司に見てもらったときや、記事の校正を受けたときに、こう直された方もいるでしょう。学校の作文や職場の先輩から同じように教わった人もいて、「を、」は避けるものだと考えられがちです。
しかし、弊社はこれまで多くの企業の記事やブログを制作し、書き手ごとに違う読点の打ち方を校正でそろえてきました。その経験から言えるのは、「を」の後の読点は誤りではなく、語順を入れ替えれば消せることが多い読点だということです。
本記事では、「を」の後の読点が誤りかどうかの答えから、打ってよい場面、打つ前に試す語順の入れ替えまで、校正で読点を直してきた制作会社の視点でお伝えします。
- 「を」の後に読点を打ってはいけないという決まりはなく、文化庁の「公用文作成の考え方」にも「を、」を使った文がある
- 2つの「を」が1つの動詞を分け合う文、「を」と動詞の間に長い語句が入る文、読点がないと別の語に係って読める文では、打ってよい
- 「資料を、送ります」のように、短い目的語のすぐ後に動詞が来る文では打たない
- 打つ前に長い語句を前へ動かすか文を2つに分けると、読点なしで読める文になることが多い
「を」の後の読点は誤りか
「を」の後に読点を打つことは、日本語の誤りではありません。読点の打ち方を定めた法令はなく、「を」の後に打つことを禁じた国の基準もないためです。
国の機関が文書を書くときの目安として、文化審議会が2022年1月に建議した「公用文作成の考え方」があります。「公用文作成の考え方」の解説文にも、「を」の後に読点を打った文があります。たとえば「1段階目の結び付きには『及び』を、2段階目の結び付きには『並びに』を使う」や「読み手に届けるべき情報を、意図するとおりに、誤解なく伝える」です。

※ 出典:文化審議会「公用文作成の考え方(建議)」(2022年1月7日)の解説より
それでも「打たない」と教わるのは、「を」が直後の動詞と強く結びつく助詞だからだと見ています。「資料を送る」のように目的語と動詞が隣り合う文では、間に読点を入れると、読み手は区切る理由を探して一度止まります。
上司に「『を』の後に読点はつけない」と直されました。今後は一切打たないようにしたほうがいいでしょうか。
編集部
一切打たないと決めなくて大丈夫です。2つの「を」が同じ動詞を分け合う文や、読点がないと意味を取り違える文では、打ったほうが伝わります。
「を」の後に読点を打ってよい3つの場面
「を」の後に読点を打ってよいのは、読点によって「を」がどの動詞に係るかを読み手が迷わずに済む次の3つの場面です。
2つの「を」が1つの動詞を分け合う文
2つの「を」が最後の動詞を分け合う文では、1つ目の「を」の後に読点を打ちます。「朝はパンを、昼はそばを食べた」では、「パンを」と「そばを」がどちらも「食べた」に係ります。読点を外した「朝はパンを昼はそばを食べた」は、「を」が続いて区切りが見えにくくなります。先に引いた公用文の解説の「『及び』を、〜『並びに』を使う」も同じ形です。
「を」と動詞の間に長い語句が入る文
「を」と動詞の間に2つ以上の語句が入る文では、「を」の後の読点が、ここから先は動詞を説明する語句だと示します。「読み手に届けるべき情報を、意図するとおりに、誤解なく伝える」では、「情報を」と「伝える」の間に「意図するとおりに」「誤解なく」の2つが入っています。
間に入るのが「すぐに」「丁寧に」のような短い語1つなら、読点は要りません。「情報を丁寧に伝える」は、区切らなくても一息で読めます。
読点がないと「を」が直後の語に係って読める文
読点がないと「を」が直後の語に係って読める文では、読点で係り先を示します。「前回の資料を読み込んでいない参加者に配る」は、「前回の資料を読み込んでいない」が「参加者」の説明に読め、何を配るのかが分からなくなります。
「前回の資料を、読み込んでいない参加者に配る」と打つと、「資料を」が最後の「配る」に係ると読めます。「を」の後の読点は、係り先が直後の語ではないという合図として働くのです。

「を」の後に読点を打たないほうがよい文
「を」の後に読点を打たないほうがよいのは、目的語が短く、すぐ後に動詞が続く文です。報告書やメールで直されやすいのも、次のような文です。
- 資料を、送ります
- 会議の日程を、調整しました
- 新しいツールを、導入する予定です
語句を強調したくて打つ「を、」も、報告書や記事では避けます。話すときの間を文字に写した書き方で、読み手には区切る理由が見当たらないためです。
読点を打つ前に試す語順の入れ替え
「を」の後に読点を打ちたくなったら、先に語順を入れ替えて、読点なしで読める文にできないかを試します。公用文作成の考え方も「修飾節は長いものから示すか、できれば文を分ける」として、「を、」を含む文を書き直す例を挙げています。
公用文の解説の例では、「我が国は、文化遺産国際協力に関する覚書を、文化財の保存修復や国際協力の分野で永年の経験を有するイタリアと締結している」を書き直しています。長い「〜イタリアと」を前に出し、「〜イタリアと、文化遺産国際協力に関する覚書を締結している」とすると、「覚書を」の後の読点が消えます。
「を」の語句が、文のどの動詞に係るかを確かめます。係る動詞が直後にあれば、読点を消すだけで直ります。
「を」と動詞の間にある語句が目的語より長ければ、間の語句を文の前へ動かします。「前回の資料を、読み込んでいない参加者に配る」は「まだ目を通していない参加者に、前回の資料を配る」と書き直せます。
語順を入れ替えても長い文は、2文に分けます。公用文の解説も「我が国は、文化遺産国際協力に関する覚書をイタリアと締結している。イタリアは、文化財の保存修復や国際協力の分野で永年の経験を有している」と分ける例を示しています。

複数人で書く媒体での「を」の後の読点の扱い
複数の書き手で記事を作る媒体では、「を」の後の読点をどの場合に打つかを表記ルールに書いておきます。読点の打ち方は書き手の癖が出やすく、書き手が2人以上いると、同じ媒体の中に「を、」を打つ記事と打たない記事が混ざるためです。
表記ルールに書く1行の例:「を」の後の読点は、2つの「を」が1つの動詞を分け合う文と、読点がないと別の語に係って読める文だけに打つ。ほかの文は、語順の入れ替えか文の分割で直す。

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「を」の後の読点についてよくある質問
ほかの助詞の後の読点も「を」と同じ考え方で打つのか、という質問がよくあります。
「は」の後の読点は、「を」の後よりも広く使われます。「は」が示す主題と述語の間には距離があることが多く、「当課は、」のように文頭の主題の後に打つと、何についての文かが先に伝わるためです。「私は行きます」のような短い文なら、打たなくても読めます。
「に」「が」の後の読点も、直後の語でなく離れた動詞に係ると示したいときに打ちます。直後の動詞に係るときは打ちません。
公用文作成の考え方では、読点に「、」を使うことを原則とし、横書きでは「,」を使ってもよいとしています。1つの文書の中ではどちらかにそろえます。
まとめ|「を」の後の読点は語順で消せるかを先に試す
「を」の後の読点は誤りではなく、文化庁の「公用文作成の考え方」にも使われています。2つの「を」が1つの動詞を分け合う文、「を」と動詞の間に長い語句が入る文、読点がないと別の語に係って読める文では、打ってよい読点です。
ただし、打つ前に長い語句を前へ動かすか、文を2つに分けられないかを試すと、読点なしで読める文になることが多くあります。「資料を、送ります」のように短い目的語のすぐ後に動詞が来る文では、読点を消しましょう。
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