「業務システムの見積もりが高い気がするが、相場と比べれば妥当かどうか分かりそう」。家の工事を頼むときや社用車を買うときは、相場の金額と見比べて高い安いを決めてきたので、システム開発も同じように判断できると考えるのは自然です。ところが、システム開発の費用は働く人の月数に単価をかけた額で、月数は作る範囲で決まります。見積もりの妥当さを決めるのは相場の金額ではなく、その開発で何の作業をどれだけ減らすかと、最初に作る範囲です。
本記事では、見積もりと並べて比べる数字から、自社の数字で元が取れるかを確かめる式と記入例、最初に作る範囲の決め方まで、業務の自動化と社内システムの開発を請け負う会社の視点で順を追ってお伝えします。
- 見積もりが高いかは、相場ではなく、毎月減る作業時間と2〜3年でかかる総額を比べて判断する
- 3年で減る額は「減る作業時間(月)×時給×12か月×3年」で、かかる額は「開発費+毎月の保守費×36か月+社内で使う時間×時給」で出す
- 見積書に載らない保守費、修正の料金、データの移し替えの有無で、3年でかかる額は変わる
- 最初は社員が毎日触る画面1つだけを作ると、初めの費用と、見込みが外れたときの損を小さくできる
システム開発の費用相場で見積もりを判断できない理由
システム開発の費用相場で見積もりの高い安いを判断できないのは、費用の違いの多くが工数の違いで説明でき、工数は作る範囲で大きく変わるからです。工数は「何人が何か月働くか」を表す作業量で、1人が1か月働く量を1人月と数えます。
日本情報システム・ユーザー協会が2025年4月に発行した「ソフトウェア・メトリクス調査2025」では、従来型の開発を中心に、単価が50万円以上400万円以下の195件を分析した結果、総費用の違いの92%が工数の違いで説明できました。外注コストが記録された、既製の仕組みを使わずに一から作る開発99件では、1人月あたりの単価が加重平均で96万円で、10人月を超える開発では規模による単価の差は小さい結果でした。
(参考:ソフトウェア・メトリクス調査2025(日本情報システム・ユーザー協会))
どちらも、情報システムの開発と保守に取り組んできた企業へのアンケートをまとめた数字で、500人月以上の大きな開発も含みます。

相場表に載っている金額は、ほかの会社が決めた範囲で作ったときの金額です。自社の見積もりと作る範囲が違えば、金額が相場より高くても低くても、それだけで妥当かどうかは決められません。
それなら、2社に見積もりを頼んで安いほうを選べば済むのではないですか。
編集部
2社の見積もりを比べるのは有効です。ただ、伝えた範囲の受け取り方が会社ごとに違うと、金額の差は作る範囲の差になります。同じ資料を渡して範囲をそろえたうえで、元が取れるかを自社の数字で計算すると、安いほうが得かどうかまで分かります。
システム開発の見積もりと比べる2つの数字
システム開発の見積もりと並べて比べる数字は、その開発で毎月減る作業時間と、2〜3年でかかる総額の2つです。見積書に書かれた開発費は、総額のうち最初に払う分にあたります。
毎月減る作業時間
毎月減る作業時間は、新しいシステムを使うと、今している作業のうち何時間がなくなるかを、作業ごとに出した時間です。FAXの注文を表に打ち直す作業なら、打ち直しにかかる時間から、新しい画面で残る確認の時間を引いた分が減る時間になります。
1回の時間と月の回数は、今の作業を1週間記録した数字から出します。思い出して見積もった時間は、実際より短くも長くもなるためです。
減る作業時間が、そのまま会社の利益になるわけではありません。浮いた時間を、見積もりの件数を増やすことや営業に回すか、残業代やパートを採用する予定を減らして初めて、計算した額がお金として残ります。
2〜3年でかかる総額
2〜3年でかかる総額は、開発費に、毎月の保守費と、社内で使う時間を足した額です。保守は、作ったシステムを動かし続けるための作業で、サーバーの管理や不具合の修正が入ります。社内で使う時間には、仕様を決める打ち合わせや動作の確認に社長と社員が使う時間を、時給で金額にして入れます。
とりわけ見落とされがちなのが、毎月の保守費です。月5万円の保守費は、3年で180万円になります。
使う年数を2〜3年と短めに置くのは、取引先や業務の流れなどが変わると、システムを直す費用が新たにかかるからです。短い年数で元が取れる計算なら、途中で業務が変わっても損をしにくくなります。
開発費の元が取れるかを確かめる計算式と記入例
開発費の元が取れるかは、3年で減る額が3年でかかる額を上回るかで確かめます。使う式は次の2つです。
出すもの | 式 |
|---|---|
3年で減る額 | 減る作業時間(月)×作業する人の時給×12か月×3年 |
3年でかかる額 | 開発費+毎月の保守費×36か月+社内で使う時間×時給 |
使う年数を2年で見るときは、3年を2年に、36か月を24か月に置き換えます。
作業時間と時給の書き出し
作業時間は、新しいシステムで置き換えたい作業ごとに、今の時間と、新しい仕組みで残る時間を書き出します。記入例は、注文をFAXとメールで受けている会社を想定した数字で、自社の作業と時間に置き換えて使います。
作業 | 今の月の時間 | 新しい仕組みで残る時間 | 毎月減る時間 |
|---|---|---|---|
注文を受注表に打ち直す | 40時間 | 5時間 | 35時間 |
受注表から出荷指示書を作る | 10時間 | 2時間 | 8時間 |
月末に請求書を作る | 7時間 | 2時間 | 5時間 |
在庫の数を倉庫に確かめる | 6時間 | 1時間 | 5時間 |
合計 | 63時間 | 10時間 | 53時間 |
時給は、月の給与に会社が負担する社会保険料を足し、月の労働時間で割って出します。記入例では、給与と会社負担分を合わせて月32万円の事務の社員を、月32万円÷160時間で2,000円とし、社長は役員報酬を同じように割って4,000円と置きます。
全部作る場合と画面1つの場合の計算
範囲の違う見積もりが2通りあるときは、どちらも同じ式に入れます。記入例では、4つの作業をまとめて置き換えるシステムと、注文の打ち直しを置き換える入力画面だけを作る場合を並べました。見積もりの金額は計算の流れを示すために置いた数字で、相場を示すものではありません。
項目 | 4つの作業をまとめて作る | 打ち直しの画面だけ作る |
|---|---|---|
毎月減る時間 | 53時間 | 35時間 |
3年で減る額 | 381万6,000円 | 252万円 |
開発費 | 600万円 | 150万円 |
3年分の保守費 | 月6万円×36か月=216万円 | 月2万円×36か月=72万円 |
社内で使う時間 | 社長40時間×4,000円=16万円 | 社長15時間×4,000円=6万円 |
3年でかかる額 | 832万円 | 228万円 |
差し引き | 450万4,000円のマイナス | 24万円のプラス |
打ち直しの画面だけを作る場合でも、毎月減る時間が35時間ではなく30時間なら、3年で減る額は216万円になり、12万円のマイナスに変わります。現在の作業時間は測った数字で入れ、導入後に残る時間は複数の条件で置いて計算します。範囲を小さくしておけば、見込みが外れても損は12万円にとどまります。

手段ごとの1時間あたりの比べ方
手段ごとの費用は、3年でかかる額を3年で減る時間で割った「1時間減らすのにかかる額」で比べます。1時間減らすのにかかる額が、作業する人の時給を下回れば元が取れます。
手段ごとに、3年でかかる額に入るものと合う場合を並べると、次のとおりです。
| 全部の機能を作る開発 | 一番手間のかかる作業だけ作る開発 | 既製のクラウドサービス | |
|---|---|---|---|
| 3年でかかる額に入るもの | 開発費、保守費、社内の時間 | 開発費、保守費、社内の時間 | 月額×人数×36か月、初期設定の費用、社内の時間 |
| 社内でかかる時間 | 全部の機能の仕様を決める時間 | 画面1つの入れるものと出てくるものを決める時間 | 今の作業の手順をサービスに合わせる時間 |
| 合う場合 | どの作業も1時間あたりの額が時給を下回る | 減る時間の大半が1つの作業に集まっている | 今の作業の手順をサービスに合わせて変えられる |
記入例では、4つまとめて作る場合が832万円÷1,908時間で約4,360円、打ち直しの画面だけ作る場合が228万円÷1,260時間で約1,810円です。時給2,000円を下回るのは、打ち直しの画面だけ作る場合です。
どの作業から仕組みにすれば元が取れるか、計算の途中で迷っていませんか
業務効率化・自動化では、定型業務のAIによる自動化から社内システムの開発までを請け負っています。記入例と同じ形で書き出した作業の表を添えていただければ、表のどの作業から仕組みにするかを一緒に相談できます。
見積もりの内訳で確かめる4つの項目
見積もりの内訳で確かめる項目は4つで、どれも3年でかかる額が見積書の開発費より膨らまないかを見るためのものです。
工程ごとの工数と単価
工程ごとの工数と単価では、要件定義・設計・開発・テストのそれぞれに、何人月かかり単価がいくらかが分けて書かれているかを確かめます。要件定義は、作る画面や機能、入れる項目を決める工程です。
「ソフトウェア・メトリクス調査2025」では、5%刻みに丸めた工数の割合は、要件定義が15%、設計から部品をつないで確かめる結合テストまでが60%、総合テストが25%でした。総合テストは、業務の流れに沿ってシステム全体を確かめるテストで、リリース後数か月の初期フォローなども含みます。大きな開発も含む割合なので、自社の見積もりと見比べる目安として使います。
要件定義の工数が少ない見積もりでは、画面や項目を決める作業が開発の途中に回り、決め直した分が追加の費用になることがあります。
「開発一式」のように工程を分けずに書かれた見積もりでは、どの工程に何人月かかるかが分からず、2社の見積もりを並べても差の理由を確かめられません。工程ごとの人月と単価を出してもらうよう頼みます。
保守費に入る作業
保守費に入る作業は、月の保守費で何をしてもらえるかを確かめる項目で、確かめるのは次の4つの作業です。
- サーバーの費用
- 不具合の修正
- OSやブラウザの更新に合わせた修正
- 使い方の問い合わせへの回答
どれが入っているかは契約によって違い、機能の追加は保守費とは別に見積もる契約もあります。
作ったあとの修正の料金
作ったあとの修正の料金は、使い始めてから画面に項目を足したり帳票の形を変えたりするときに、料金がどう決まるかを確かめる項目です。1件ごとに見積もる契約か、月の保守費に含まれる時間の中で受ける契約かで、3年でかかる額が変わります。
見積もりの段階で「入力画面に項目を1つ足すと、いくらかかりますか」と聞くと、修正の料金の決まり方が具体的に分かります。不具合を無料で直す期間が何か月かも、あわせて確かめます。
データの移し替え
データの移し替えでは、今のExcelや古いシステムにある取引先や商品などのデータを、新しいシステムに移す作業が見積もりに入っているかを確かめます。入っていないと社員が手で打ち込む時間が増え、その時間も社内で使う時間として3年でかかる額に入ります。
移す前に、表記の揺れや重複を誰が直すかも決めておきます。同じ取引先が別の名前で登録されたまま移すと、新しいシステムでも取引先ごとの集計が2つに分かれます。
最初に作る範囲を絞って見積もりを取る手順
最初に作る範囲は、社員が毎日触る画面1つと、その画面で入れるもの・出てくるものだけに絞ります。工数は画面と機能の数で増えるので、範囲を絞るほど初めの開発費が下がり、見込みが外れたときの損も小さくなります。
画面を1つずつ足していくと、まとめて作るより結局高くつきませんか。
編集部
足すたびに打ち合わせやテストがかかるので、合計がまとめて作るより高くなることはあります。それでも、最初の画面で減った時間を測ってから次を決めれば、使われない機能にお金を払わずに済みます。後で足す予定の画面を最初の見積もりのときに伝えておくと、作り直しを避けやすくなります。
範囲を絞って見積もりを取る手順は4つで、社長か担当者が1人で進められます。
計算で書き出した作業のうち、毎月減る時間が一番大きく、社員が毎日開く画面を1つ選びます。記入例なら、注文の打ち直しを置き換える入力画面です。
選んだ画面で入れる項目と、画面から出てくる帳票や一覧だけを書き出します。項目の名前は今使っている受注表の列名をそのまま使うと、開発会社との言葉の食い違いが減ります。画面の色や配置は書きません。
今回は作らない機能と、後で足すかもしれない機能を書き出します。書いておかないと、開発会社が必要かもしれない機能まで含めて見積もり、範囲が広がることがあります。
画面と機能の書き出しを、下の記入例の形で1枚の資料にまとめ、2社以上に同じものを渡します。
記入例の会社が2社に渡す1枚の資料は、次のようになります。
書く欄 | 記入例 |
|---|---|
今の作業の流れ | 注文はFAXとメールで届き、事務の社員が受注表に打ち直してから出荷指示書を作る |
使う人数 | 入力するのは事務の社員3人、見るのは倉庫の社員2人と社長 |
困っていること | 打ち直しに月40時間かかり、数量の打ち間違いで出荷をやり直すことがある |
最初に作る画面 | 注文の入力画面。入れるのは取引先、商品、数量、納期で、出てくるのは出荷指示書とその日の注文の一覧 |
作らなくてよいもの | 請求書の作成は今の会計ソフトを使い続ける。在庫の管理は、注文の画面で減った時間を見てから決める |
2社以上に同じ資料を渡すと作る範囲がそろうので、金額の差を、工程ごとの工数と単価の差として比べられます。受け取った見積もりは計算の式に入れ、1時間減らすのにかかる額を出します。

社内で進める手が回らないときの任せ方
社内で進める手が回らない場合は、作業の記録から見積もりの比較までを、外部に任せる道があります。
自社で進める場合にかかるのは、お金ではなく社長と社員の時間で、次の5つの作業に使います。
- 1週間の作業の記録
- 元が取れるかの計算
- 画面と機能の書き出し
- 1枚の資料づくり
- 2社以上との打ち合わせ
任せる場合は支援の費用がかかる代わりに、作業時間の記録をもとにした計算と、最初に作る範囲を書いた資料が手元に残ります。支援の費用も3年でかかる額に入れ、自社で進める場合と同じ式で比べます。
計算の式は、どの会社に頼む場合にも使えます。私たち合同会社Writers-hubも、業務効率化・自動化のサービスとして、定型業務のAIによる自動化から社内システムの開発まで請け負っています。料金は内容に合わせて見積もるので、計算した数字を持ってご相談ください。
計算した数字はそろったのに、最初に作る画面を決めきれずにいませんか
毎月減る作業時間の表と、3年でかかる額の計算を添えてご相談ください。1枚の資料の記入例と同じ形で、今の作業の流れと作らなくてよいものを書いていただければ、その範囲で見積もります。







