「AI研修を受けさせれば、社員は次の日から仕事でAIを使うはず」。研修の演習でAIが文章を書くところを社員が体験すれば、あとは使うだけに見えるからです。ところが、研修の後に社員がAIを使い続けるかどうかは、どの業務でAIに下書きさせ、誰が確かめ、客のどの情報を入力してよいかを、会社が研修の前に決めているかで変わります。
本記事では、研修の後にAIが使われなくなる原因から、研修の前にAIに任せる業務を決める手順、入力してよい情報と確かめる人の決め方まで、毎日の記事づくりにAIを使っている制作会社の視点で順を追ってお伝えします。
- 研修で頼み方を覚えても、使う業務と使ってよい範囲が決まっていなければ、社員は元のやり方に戻る
- 研修の前に、文章を作る業務からAIに下書きさせる業務を3つ選ぶ
- 業務ごとに、AIに渡す資料と頼み方と人が確かめる所を1枚にまとめ、その業務での演習を研修会社に頼む
- 客の名前や取引の金額などAIに入力しない情報と、下書きを確かめる人を業務ごとに決める
- 研修の後の2週間は、決めた業務でAIを使った回数と1件の時間を数える
「AI研修で使い方を教えれば社員は使う」は本当か
「AI研修で使い方を教えれば社員は使う」という考え方は、社員が操作を覚えるところまでは当たっています。研修では、AIへの頼み方(プロンプト。AIに出す指示の文)と、出てきた文を直させる操作を練習できるからです。
当たらないのは、研修の翌日に、社員が自分の仕事でAIを使い始めるところです。どの仕事に使ってよいか、客のどの情報を入力してよいかは、研修では決まりません。
研修会社に頼めば、そういう社内の決まりまで教えてくれるのではないですか。
編集部
AIを使うときの一般的な注意点は、研修で教われます。ただ、御社のどの業務でAIを使い、客のどの情報を入力してよいかは、御社の取引を知らない研修会社には決められません。会社が研修の前に決めておけば、その決まりに沿った演習を研修会社に頼めます。
AI研修の後に社員が使わなくなる3つの原因
AI研修を受けた社員がAIを使わなくなる原因は、次の3つです。どれも社員のやる気ではなく、会社が研修の前に決めていないことから起きます。

自社の仕事と結びつかない研修の例題
研修の演習が、架空の商品の紹介文のような例題だったとします。社員は頼み方を覚えても、自社の見積の説明文を頼むときに、AIに何の資料を渡せばよいかが分かりません。
例題と自分の仕事の間を埋める作業は、社員が一人ですることになります。
入力してよいか分からない客の情報
問い合わせへの返信をAIに頼もうとすると、客の名前や相談の中身を入力してよいかで手が止まります。会社が決めていなければ、社員は問題が起きたときの責任を考えて、使わない方を選ぶでしょう。
AIの下書きを確かめる人の不在
AIの下書きを誰が、どこを確かめてから送るかが決まっていないと、社員は下書きを一から全部読み直すか、読まずに送るかのどちらかになります。一から読み直す手間が今までの作業と変わらなければ、AIを使う理由がありません。読まずに送れば、AIが書いた料金や日付の誤りがそのまま客に届きます。
AIを使う業務と使ってよい範囲を先に決める理由
AIを使う業務と使ってよい範囲を研修の前に決めておくのは、研修の演習を自社の業務で行い、研修の翌日から同じ手順で使えるようにするためです。演習で作った頼み方が、そのまま翌日の仕事の頼み方になります。
業務を選ぶときは、AIに任せるのは下書きまでで、客に送る前に人が確かめると決めておきます。AIの書いた文には、渡した資料に無い料金や、していないサービスの説明が混ざることがあるためです。
使ってよい範囲が決まっていれば、社員は入力してよいかを1件ずつ自分で判断せずに済みます。迷ったときに確かめる先が、社内に配った1枚の紙になるからです。
最初に決める業務は、3つほどに絞りましょう。業務ごとに手順を1枚の紙にまとめるので、数が多いと研修の日までに準備が終わりません。
研修の例題を、自社の業務に置き換えられていますか
どの業務からAIに下書きさせるかを決めるところから相談できます。当社が実務で使っているAIツールとプロンプト、ワークフローを教材に、業務の棚卸しから、社内で自分たちでできる状態になるまで伴走します。
研修の前にAIに任せる業務を決める手順
AIに任せる業務は、毎週の手作業を書き出し、文章を作る作業から3つ選んで決めます。研修の後の記録までを含めると、手順は次の5つです。
社長と社員がそれぞれ、先週1週間にくり返した手作業を書き出します。先週の予定表と、送ったメールを見ながら書くと思い出しやすくなります。作業ごとに、週に何回あったかも添えてください。
書き出した作業から、問い合わせへの返信、見積の説明文、打ち合わせのまとめのように、文章を作る作業を3つ選びます。選ぶ作業は、次の3つの条件をすべて満たすものです。
- 週に何回もある
- 元になる資料(料金表や打ち合わせのメモ)がある
- 送る前に誰かが読み返している
金額の計算や契約の判断は、AIの答えを確かめるのに計算や判断をやり直すことになるので、最初の3つには入れません。
選んだ業務ごとに、AIに渡す資料と、AIへの頼み方と、人が確かめる所を1枚にまとめます。研修の前に書いておくのは、渡す資料と確かめる所の2つで足ります。頼み方の欄は、研修の演習で作った文を後から書き入れます。
研修会社に見積を頼む前に、1枚の手順書を見せ、その業務を例にした演習ができるかを聞きます。あわせて、演習で作った頼み方を持ち帰って社内で使えるかも確かめてください。手順書や資料を研修会社に渡すときは、客の名前と金額を先に消しておきます。
研修の後の2週間、決めた3つの業務でAIを使った回数と、1件にかかった時間を担当者が記録します。1件の時間は、AIに頼んでから確かめて送るまでで数え、研修の前の週にも同じ業務で測っておくと比べられます。時間が減らない業務は、渡す資料か頼み方を見直し、それでも減らなければAIに任せる業務から外します。
問い合わせへの返信を例にすると、1枚の手順書の中身は次のようになります。
欄 | 書く中身の例 |
|---|---|
AIに渡す資料 | 料金表、営業日の一覧、似た問い合わせに前に送った返信 |
AIへの頼み方 | 「次の問い合わせに、料金表をもとに300字ほどの返信の下書きを作ってください。料金表に無いことは書かないでください」 |
人が確かめる所 | 料金と日付が料金表と合っているか、自社がしていないサービスや決めていない条件を約束していないか、客の名前と敬称が正しいか |

入力してよい情報と確かめる人の決め方
社内で決めるときに迷いやすいのは、AIに入力しない情報の線引きと、AIの下書きを確かめる人の2つです。どちらも社員に任せず、社長が決めて1枚の紙で社内に配ります。
AIに入力しない情報の線引き
AIに入力しない情報は、客の個人情報と取引の金額を中心に、次の4つを決めておきます。
- 客の名前、住所、電話番号、メールアドレス
- 見積や取引の金額
- まだ社外に出していない社内の計画や数字
- 取引先から預かった資料
客の名前や連絡先を消しても、問い合わせへの返信の下書きは作れます。相談の中身と料金表を渡せば足りるからです。見積の説明文も、金額は人が後から書き入れます。
顧客台帳に載っている客の情報を本人の同意なく入力し、その情報がAIの回答を作る以外の目的、たとえばAIの学習に使われると、個人情報保護法に違反するおそれがあります。個人情報を入力するなら、先に、使うサービスが入力した内容を学習に使わないかと、客の情報を使う目的として決めた範囲に入るかを確かめます。確かめ終わるまでは、入力しない決まりにしておくと、社員は迷いません。
(参考:生成AIサービスの利用に関する注意喚起等(個人情報保護委員会))
Geminiで入力した内容を学習に使わせない設定は、Geminiに学習させない設定の手順にまとめました。
AIの下書きを確かめる人と確かめ方
AIの下書きを誰が確かめるかを、業務ごとに1人ずつ決めることは、見落とされがちです。確かめる人は、AIに詳しい社員ではなく、その業務を今担当していて、送る前に読み返している人にします。確かめるのはAIの使い方ではなく、料金や日付、約束の中身が正しいかだからです。
決まりは、AIの下書きは、確かめる人が読むまで客に送らないの1つで足ります。
社長が全部を確かめる形にすると、社長の手が空くまで返信が止まってしまいます。社長が読むのは研修の後の2週間だけにして、確かめる所の抜けがないかを見たら、担当者に任せましょう。

AI研修を頼む前のよくある質問
AI研修を頼む前によくある3つの質問に答えます。
AI研修は全社員に受けさせる?
AI研修は、最初から全社員に受けさせなくてもかまいません。選んだ3つの業務を担当している社員と、その下書きを確かめる人から受けてもらうと、演習を自社の業務で行えます。ほかの社員には、2週間の記録を見て頼み方を決めた後に、担当者が1枚の手順書を使って伝える形でも始められます。
社員を役割ごとに分けて育成の計画を立てる進め方は、企業のAI人材育成の進め方にまとめました。
研修の費用に助成金は使える?
AI研修の費用には、国の助成金を使える場合があります。厚生労働省の人材開発支援助成金にある事業展開等リスキリング支援コースは、訓練の経費と、訓練中の賃金の一部を助成します。対象は、新しい事業やDX(デジタル技術で業務を変えること)、脱炭素(GX)に必要な知識を身につける訓練と、一定の条件を満たす人事・人材育成の計画に基づき、社員が今後就く予定の職務に必要な知識を身につける訓練です。このコースは令和8年度までの期間限定で、AI研修が対象になるかは訓練の中身ごとに判断されます。
条件には、原則として研修を始める日の6か月前から1か月前までに計画届を労働局に出すことや、訓練の時間が10時間以上であることがあります。計画届を出す期限と訓練の時間の数え方は、研修の方式や対象の社員によって変わります。使うつもりなら、研修の日程を決める前に、管轄の労働局に条件を確かめてください。
(参考:人材開発支援助成金(厚生労働省))
助成金のコースの違いと、対象から外れやすい研修は、AI人材育成の助成金3コースの選び方にまとめました。
社内のルールを全部作ってから受ける?
社内のルールは、全部そろえてから研修を受ける必要はありません。研修の前にそろえるのは、選んだ3つの業務の1枚の手順書と、AIに入力しない情報の一覧の2つです。研修の後の2週間で社員が迷った場面を書き留めてもらい、そのつど手順書か一覧に書き足します。
業務ごとの手順を作る手が回らない場合
業務ごとの手順を作る手が回らない場合も、AIに入力しない情報と、下書きを確かめる人の2つは会社が決め、業務の書き出しと1枚の手順書づくりを外に任せます。客の情報の扱いと、客に送る文の中身には、会社が責任を持つからです。
業務の書き出しと1枚の手順書づくりは、外の人が社長や担当者に毎週の仕事を聞き取りながら進められます。研修会社に頼む場合は、見積の前に、演習の準備として業務の聞き取りまで引き受けてもらえるかを聞いてください。研修の後まで手伝いが要るなら、2週間の記録を一緒に見て、頼み方や渡す資料を直すところまで頼める相手を選びます。
毎週の手作業の書き出しに、手が回らないままになっていませんか
毎週の手作業の書き出しと業務ごとの手順づくりに時間が取れないなら、業務の棚卸しから一緒に進められます。当社が実務で使っているAIツールとプロンプト、ワークフローを教材に、社内で自分たちでできる状態になるまで伴走します。
まとめ|AI研修は使う業務と範囲を決めてから受ける
研修で使い方を教えるだけでは、社員はAIを使い始めません。研修の前に、AIに下書きさせて人が確かめる業務と、使ってよい範囲を会社が決めておきます。研修を頼む前に決めておくことは、次の4つです。
- AIに下書きさせる、文章を作る3つの業務
- 業務ごとに、AIに渡す資料と人が確かめる所を書いた1枚の手順書
- AIに入力しない情報の一覧と、業務ごとに下書きを確かめる人
- 研修の後の2週間に、AIを使った回数と1件の時間を記録する担当者
研修の前後に会社がすることは、この記事の手順で自分たちでも決められます。業務ごとの手順を作る時間が取れない場合は、私たち合同会社Writers-hubが、実務で使っているAIツールと頼み方を教材に、業務の棚卸しから、社内で自分たちで使える状態になるまで伴走します。







